2007-04-27

[]「天と地と 下」 海音寺潮五郎

終わったー。正直に言うとえっ…ええー終わるの?と思ってたら終わった。ものすごくあっさりしてんだもん海音寺先生。結論からいえば景虎上杉謙信になりませんでした。上杉謙信の小説だと思ってたのに長尾景虎のお話であったのだなあ。

この間読んだ風林火山と全く同じ第四次川中島の戦いで終わっているのでなんかちょっともやんとしたものが残ったのは否めないですけども、まあ面白かったです。というかこの先の信長との戦いとか読みたかったのになあ。しかしまあなんだかんだで初めて上杉謙信側の小説を読んだわけですけども、上杉サイドから見ると武田がとんでもない強国に見えるし、逆に武田サイドから見ると上杉謙信がなんかもう軍神にしか見えないんですよなあ。相手サイドの描写を抑えることによってそういう効果が生まれているのかなと感じた。

下巻ではわりといろんなものに翻弄されていく景虎というものがいたわけであり、なんか潔癖性の完璧主義者みたいなイメージの男が実はわりと癇癪持ちのわがままな男であり、まあちょっとありふれた表現をしてしまうと人間くさい部分を持ち合わせていたのだよなあということを思わされる感じであった。わがままだからこそ完璧を求めるというか。

とりあえず謙信軍神たらしめているであろうと思われる最後の突撃に関しても、もうなんというか武田信玄のことが嫌いすぎる故に発動した軍神突撃にしか見えないのでそれはそれですごい。なんにせよライバルの存在というのはわりと人を向上させるものですな。信玄はともかく謙信信玄がいなければここまで後世に語り継がれる人にはなっていなかったんじゃなかろうかと思ったりした。

しかしまあここまで長々と書いておきながらああいった落とし方をするとは予想外でありました。多分書こうと思ったらあと二巻分はいけたと思いますけど。まあこれはこれで面白かったと思います。うん。ただ俺のイメージしてたテンションとわりと違ったのですかされた感が強い。あと山本勘助は出してやらないって書いてるときの地の文が面白かったです。

天と地と 下 (文春文庫)

天と地と 下 (文春文庫)

[]「一日江戸人」 杉浦日向子

なんとなくタイトルに引かれて買ったのだけど、いわゆる雑学本かと思って読んでたら書いてる人の主観が結構出ていて興味深く読めた。思い入れのない雑学本ほど読む価値のないものはないってこともないけど、思い入れがあった方がより楽しめます。

内容としては江戸時代ってこんな時代っていうのを、作者の憧憬を交えて、文章と絵で書き連ねていく本であり、俺のように伝奇小説で江戸時代の知識を蓄えているような人間にとってはわりと知らないような事をわかりやすく書かれていたので面白かった。将軍の激務さとか。

でもまあなにはなくとも江戸の町人文化というものについてここまで書かれている本というのを初めて読んだので、うん、面白いですよね江戸という感じになった。江戸時代江戸に住む人たちがいかに適当な感じで毎日楽しく生きていたかというようなことを楽しそうな筆致で書かれるので読んでいて楽になれる。とにかくまあその辺の時代が好きな人は気楽に読める本だと思います。

一日江戸人 (新潮文庫)

一日江戸人 (新潮文庫)