■ [読書]「将棋の子」 大崎善生
久々に読んだこの人の本。アジアンタムブルーとかパイロットフィッシュではもうどうしようもなく切ないというか絶望感みたいなものを書くのが上手いというか、そういうのしか書けないんだなあと思っていたんだけど。
この本はタイトル通り将棋の話なんですけども、奨励会つうプロ棋士の養成所みたいなところが舞台というか、物語の核はそこを脱落していった挫折者たちの話であった。だからまあ結局切ない話であり絶望と向き合う話なんですけども、なんか前に挙げた二作に比べて妙に染みる。心に染みる。
あ、わかりやすいところで説明しておくと、奨励会つうのはヒカルの碁の院生編あたりと状況的にはほとんど一緒です。わかりにくいか。若い芽を集めてある年齢に至るまでにプロになれなければその道を閉ざしてしまうという残酷なシステム。この既得権を守るためなどといいながら結果的に自分たちの存在意義が危うくなってしまうという図式が説明されているのだけどなんだか非常に興味深いというか、なんか将棋の世界だけの話ではないような気もする。
というか、小さな頃から天才と呼ばれた人たちが集められて将棋の世界でプロ棋士及びその頂点である名人を目指す中で色々な理由から、または理由なく運の巡りの問題で道を閉ざされた人たちが、ある意味での余生を過ごすという姿を見ているのが辛くもあり切なくもあり爽快でもあったりもする。とにかくこの奨励会の人たちというのが人生をギュウギュウに凝縮した感じで読んでいるうちにあっという間に引き込まれる。
この人の小説にはなんとなく小手先で転がされてる感じがつきまとっていて、泣かせようとされてる感じがしてていまいち入り込めなかったりもしたんだけど、この話はノンフィクションということもあってリアルであり生々しく将棋に関わる人々の姿が、いや将棋を愛しながらも将棋に、プロ棋士という職業に翻弄される様というのがストレートに描かれておりわりと素直に読むことが出来た。