■ [漫画]「神々の山嶺 1~5」 夢枕獏 谷口ジロー
原作はすごいすごいと聞いていながら読んでなかったんですが、谷口ジローさんの本が読みたくて手に取ってみたらもうなんか圧倒的にすごかった。すごいって陳腐だけどすごいとしか言いようがないというか。
単純に言ってしまうと登山家の話なんですけど、ネパールでエベレスト初登頂の謎が明かされるというカメラをいかがわしい登山道具店で発見したのをきっかけにして、話が展開していきミステリ、サスペンス、恋愛という感じの話になってくるのだけど、本質的にはやはり登山の話であり、登山家がどのような心理状態でどのようにクレイジーなのかを異常な描写で描いてる漫画です。
というかもう、アルピニストというか登山家の人たちはなんであんな死ぬような思いをして山に登るのか、そこに何かがあるのかというか命をかけるようなものがあるのかなんてことまでは考えたこともなかったような気もするけれど、とにかくその心理状態というものがよく解らなくて、有名な「そこに山があるからだ」という言葉を聞いてそんなもんか…という感じに納得していたんですけれども、そんなのじゃ全然足りないというか本当にちょっとどうかしてるとしか思えないこの人たちは。「ここに俺がいるからだ」にはちょっと痺れた。
序盤の羽生という登山家のエゴイストとしか取れないような描写を延々とやっていた辺りで、これはもう登山家という題材を使った別の物語なのかと思っていたら、いつからか真っ正面から登山の話になっていき、深町側から羽生の気持ちを理解していく過程を経て、命の軽さやら重さ、生き様みたいなものまで思い知らされるような描写に持っていく展開が素晴らしかったです。ちょっともう怖くなってしまうくらいだった。
とにかく羽生という男がすごい。なにがこの人物をこうさせるのかという点においては詳細な説明がされていないけれど存在そのものが圧倒的すぎる。そしてある時点から人間的に変貌を遂げるのですが、その様を見てちょっともう久々に泣きそうになった。深町の生き様というのもすごいものがあるけれど、結局引きずり込まれたような形に見える。とにかくすごい。「正気にては大業ならず」を地でいっているような、でもものすごく人間くさいような本当にもう独特のタイプだった。原作も近いうちに読みたいと思います。夢枕獏って結構すごいんだな。谷口ジローの作画もものすごいですけど。あと野口さんてあんな顔してるけどやっぱすげえんだなと思った。知らないけど。