■ [読書]「風の呪殺陣」 隆慶一郎
信長さんは邪魔者は全殺しだったんだー!ということで、どっかで見たような書き出しで恐縮ですが読みました。隆慶一郎先生の信長はやっぱりハイパー信長であった。ハイパー第六天魔王。といっても信長自体がものすごい事になっているというわけではなく、ほぼ史実の通りなのだけど、比叡山焼き討ちと伊勢長島一向一揆の根切りという大量虐殺の面だけをクローズアップして、その心情描写に隆慶解釈を炸裂させているのでえらいことになってしまってる。
そんでまあタイトルにある呪殺というのは僧侶が叡山焼き討ちで人生捨てて、信長を呪殺というか文字通り呪い殺してやるうううという話であり、本当に隆慶先生はなにを言っているのだという感じがすごい。というか花と火の帝あたりにもあった呪術の概念が結構隆慶一郎とは食い合わせが悪いのではないかなあという感じが。吐き気を催すような執念というのは、隆慶小説の主人公としてはあんまりにあんまりである。
対照的な主人公として、槍一本でどんなやつにも負けねえッス!腕っ節と男気だけで生きていきまッス!という知一郎が隆慶小説の主人公然としていて格好がよろしいのである。傀儡子の人たちが出てくるのはまたか…という感じでもあったけども、道々の者が出てこないでなんで隆慶一郎かという感じであるので、これはこれでよかったです。こちらのラストがいささか唐突であったとは思ったけれども、書き足ししそこねた未完小説であるということなのでそこは残念。
というかこの登場人物達のものすごい人生を青春の一言で装飾する隆慶一郎の恐ろしさよ。特に昇運はなあ。恐ろし可哀想。あとわりと久しぶりに隆慶一郎小説を読んだので「○○である」といった感じの文章が出てくる度になんとなくくらくらした。隆慶先生は格好良さというものに対して真っ直ぐすぎる。だがそれがいい。